読書から、穏やかな心を

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ニュートラルでいようと決めた日

看護師として、急変の場面に出くわし、対応しなければならないことは少なくありません。

患者さんの急な心停止、呼吸停止、血圧低下、意識レベル低下、出血…

いかなる時も命を守る立場として私が1番大切にしていることは「ニュートラルでいること」です。

花

新人時代は経験値もないため、急変時は何をしていいのかわからずその場をオロオロしたり、どうしようどうしようと思考停止していました。そんな時は医師や先輩方も緊迫しているので「早く!」「何やってるんだ!」と言った言葉が飛び交い、余計に委縮し何もできずにその場をやり過ごすばかりでした。

急変に当たらない事ばかり祈っていた私ですが、自分自身が大きく変わるきっかけがありました。

 

看護師3年目のことです。当時は産婦人科に配属しており、夜勤で2人の先輩と勤務をしていました。正期産(妊娠37週以降)の妊婦さんが外出血と強い腹痛を主訴に入院されました。顔色も悪く明らかに様子はおかしい…。すぐに医師が診察し「ソウハク、緊急、緊急、超緊急。今すぐカイザー」と言いました。ソウハクとは「常位胎盤早期剥離」のことであり、正常の位置にある胎盤が赤ちゃんが産まれてくる前に剥がれてくる病態です。赤ちゃんは母体から胎盤を通して酸素を供給されているため、最悪の場合赤ちゃんが酸欠状態となり命が奪われる危険性があります。それは、母体にとっても。一刻も早く手術室に入室し、赤ちゃんを取り出してあげることが必要になります(医療用語でカイザーと言います)。

赤ちゃんとお母さんの命を絶対に救わなくてはならない、誰もが必死になります。今までの私ならパニックになっていたことでしょう。しかし、この時の医師の「緊急、緊急、超緊急」という大声を出さずに確実に緊急度が伝わる落ち着いた言葉がチームや妊婦さんを落ち着かせてくれたのです。

すぐに先輩がリーダーとなり「今すぐ手術で赤ちゃんを出します。手術室に入るまでの準備を手伝いますね」と妊婦さんに声をかけ、私に向かって「あなたは点滴をつなぐ準備をしてね」と緊迫した中にも優しさのある言葉で指示をしてくれました。決して焦らせることなく。素晴らしい医師、先輩の指示があり、私は落ち着きを取り戻し自分にできる処置をこなしました。そして妊婦さんが入院してから数分で手術室に入り、母児ともに生命の危機を乗り越えることができました。

 

私の一生忘れることのない出来事です。あくまでも私の意見ですが、あの時誰一人として冷静さを失わずに処置が行われたため、大切な命を救うことができたと思っています。しかしながら、救命救急の現場ではどんなに尽力しても救えない命もあるのが実情です。それでも、この経験を通し、自分が冷静でニュートラルな視点でいられることができれば、チームメンバーに大きな影響を与えることを私は実感しました。人の感情は伝染します。ネガティブな感情もポジティブな感情も。怒鳴り声が飛び交えば、周囲は委縮し身体が思うように動かなくなってしまったり、ミスが起きたりと、結果的に時間を大幅にロスしてしまします。1分1秒の時間の違いが患者さんの命を救えるか、救えないかにかかっています。

それから私は急変について勉強を深め、いくつかのライセンスも取得しました。急変時に備えまずできることは知識を持つことだからです。

そして、急変時どんなに周囲が焦っていても、自分より若いメンバーしかいなくても、決して冷静さを失わないようにと心に決めています。深呼吸をし、今できる最善のことをやる、それだけです。医師が大声を上げても「焦らなくていいよ。○○さんは、今使った薬の時間を紙に書いて。わからない薬の名前はひらがなでもいいよ」とアドバイスをしたり「○○は引き出しの○段目に入っているよ。落ち着いて探してみて」と具体的に必要なものを探せられるように声をかけています。

このように実践し特別評価を受けたことはありません。当たり前と言ってしまえばそうかもしれません。ただ、自分の中でその時最善の看護をしたい、それだけです。チームメンバー一人ひとりが本来の力を出し切れば、よりよい看護が提供できることでしょう。その時影響を与える人でありたいと思って日々学び働いています。

 

私の看護師人生に大きな影響を与えて下さった医師、先輩に感謝しています。この私の経験がどなたかのお役に立てたら幸いです。

 

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