読書から、穏やかな心を

本を読み、感想を書くことによる癒しを届けます

精神科医が教える 病気を治す感情コントロール術 読書感想文

本書を読み、私は初めて患者さんの心を学びました。それはとても衝撃で、看護師として、患者さんとの心の寄り添い方についてもっと学ばなくてはならないと心から思いました。

患者さんに寄り添うことは、看護師として1番に大切にしなければならないことです。しかし私はセミナーに出向くものの、病態生理、技術ばかり学んでいました。「心よりも先に方法や技術が出てはいけない」そう教わった理念ですが、患者さんの心理については後回しになっていました。その結果、治療や処置に拒否反応を示す患者さんに対し「あの患者さんの考えていることはわからない」「怒りっぽい人だ」と片付けてしまっていたのです。

これまでの患者さんとの関わりを、本書からの学びを通し振り返っていきます。

 

私は10年以上看護師として病院に勤めて、その大半はがんを患う終末期患者さんと関わってきました。

患者さんから「もう構わないで」「早く出ていって」と言われることもありました。私は患者さんから浴びせられる言葉に傷つきたくなく、そういった患者さんから距離を置くようになっていました。そして時として患者さんは「看護師さんは忙しそうで私を見ようとしてくれない」と涙を流すのです。当時はこの心理が理解できなくて、「前と言っていることが違うじゃない」と反発を覚えました。しかし私はわかっていませんでした。助けが必要な人ほど「一人にしてほしい」ということを。こういった患者さんはずっと病気の恐怖と闘い孤独だったのです。これが本書の最大の気づきでした。

 

そして「孤独な患者さんにとって、寄り添うことが最大の救いとなる」ことを学びました。

まず「笑顔で、ゆったりとした雰囲気でそこにいるだけで本人は安心する」ということ。患者さんに「一人にしてほしい」と言われたら、自然と距離を置いていました。それはさらに孤独にさせていたことになります。まずは「助けて」と言えない状況であることを理解する必要がありました。だからといって特別なことをしなくてもいいのですね。普段通りの笑顔で、体に優しく触れたり、腰を下ろして目線を合わせるだけで、安心感を与えることができたのではと振り返ります。

 

2つ目は「ウェルカムな態度で相手のタイミングを待つ」こと。

終末期患者さんには後悔を残さないように最善をつくそうと思い関わってきました。希望があれば医療用麻薬を点滴しながら退院を目指したり、家族と短時間外出ができるよう調整しました。

しかし、それはすべての患者さんに該当することではありません。「やりたいことはない」という患者さんもいらっしゃいます。そうは言っても何かあるはずだと「何かできることはないか」とアプローチし続けていました。しかしそれは「今はないもしたくない」という意味だったのだと学びました。「何かあったら、いつでも言ってください」とタイミングを待つ必要があったのですね。体調が優れずそれどころじゃなかったり、気持ちの整理がつかない方もいらっしゃいます。看護師の「何かしてあげたい」も気持ちが強いと、時にはおせっかいになることも理解しなければなりません。

 

3つ目「相手の気持ちは、言葉ではなく観察によって情報を得る」こと。

私達看護師は、患者さんの本心を聞き出そうとします。「患者さんの受け止めは?確認してきて」と上から指示されることもありました。のちにそれはたいへんさしさわりがあること学びます。なぜ聞き出すのか。それは事実を確かめる必要があると思い込んでいるからです。

そして観察は看護師の仕事です。しかし息苦しさ、浮腫み、痛みの程度、そういった体の観察しかしていませんでした。本書を読み、表情、態度といった非言語的コミュニケーションを見逃していたことに気づきます。言葉がなくたって「大丈夫です」と言いながらも声に力がなくうつむいていたら、それはとても苦しい状態だとわかります。無理に気持ちを聞き出す必要なんてありません。そこに不安や孤独が見えるのならば、そう観察すればいいだけなんですね。

 

 

今は臨床を離れているので、今回の学びを患者さんに実践することはできません。しかし本書には「病からの回復の体験を、今、病気で苦しんでいる人にお伝えすると、感謝されます」「あなたの『トンネルを抜けた体験』は、とても貴重なものであり、孤独に支配される人をこのうえなく勇気づけるのです」と書かれています。

私が患者さんとの関わりを通し本書で学んだ経験をこのように表現することで、同じ看護師として働く人たちや、その家族の勇気づけになるのだと解釈しました。それはとても微力ですが、患者さんの寄り添いに悩む人に、私の体験で気づきを与えられたらそれはとても嬉しいことです。私は臨床を離れた今もアイデンティティは看護師です。今できる形で看護師として誰かの心を救いたいと本書を読み強く思いました。

 

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精神科医が教える病気を治す 感情コントロール術

精神科医が教える病気を治す 感情コントロール術

  • 作者:樺沢紫苑
  • 発売日: 2021/04/18
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)